「道案内人」から「地域体験の設計者」へ ── アドベンチャートラベルの現場に合わせて、カリキュラムを組み直しました
日本サイクルツーリズム推進協会(JCTA)は、サイクリングガイド養成講座のカリキュラムを刷新しました。カリキュラムを足したのではなく、ガイドという仕事の定義から組み直しています。
2026年度は、この新しいカリキュラムで3回の講座を行いました。6月と7月に土浦、9月に今治。運用が固まってきましたので、あらためてお知らせします。
刷新のポイント
ガイドの定義を変えた ── 道案内人ではなく、地域体験の設計者として位置づけ直した
事実の説明から、意味づけへ ── 知識だけを伝えるブリーフィングは、それ自体が価値にならない
顧客理解を、先に置いた ── 何を話すかの前に、誰に話すかを決める順序にした
必要な力を5つに整理した ── 安全管理力/顧客理解力/ストーリーテリング力/現場対応力/上質な接遇・人間力
実習を3段階にした ── 体験する、自分の言葉に訳す、やってみる
何を変えたのか
1 道案内人ではなく、地域体験の設計者
目的地まで連れて行く人ではありません。安全に気を配りながら、その土地らしさを届ける人です。自然、歴史、文化、食、人との出会いを、ひとつの体験としてつなぐ。参加者に応じて、伝え方も進め方も変える。ガイドは地域の魅力を訳す翻訳者であり、体験を設計する人である。この前提から、カリキュラム全体を組み直しました。
2 事実の説明から、意味づけへ
これまでのガイド育成は、知識を積み上げる形で組まれてきました。創建年、人物名、文化財の指定。しかしAIの普及により、誰でも訪問先の知識を得ることができる今、知識(事実)だけを伝えるブリーフィングは、それ自体が価値になりません。旅行者が求めているのは、誰がそれを建てたのか、いま人々はそこで何を楽しんでいるのか、そしてガイド自身がそこで何を経験したのか。事実に意味を与える技術を、独立した単元として扱うようにしました。
3 顧客理解を、先に置いた
何を話すかの前に、誰に話すかを決める。アジアからの旅行者も、ヨーロッパからの旅行者も、ひとくくりにはできません。出身地、参加の目的、背景、関心のある分野。スタート時の会話で相手を知る努力をしてから、伝え方を組み立てる。その順序を身につける単元を設けました。
4 これからのガイドに必要な5つの力
- 安全管理力 ── 走行管理、リスク判断、緊急時対応
- 顧客理解力 ── 関心、体力、期待、不安を把握する力
- ストーリーテリング力 ── 地域資源を意味ある体験として伝える力
- 現場対応力 ── 天候、体調、行程変更への柔軟な対応
- 上質な接遇・人間力 ── 清潔感、会話力、配慮、安心感
従来の講座が正面から扱っていたのは、ほぼ1つ目だけでした。
5 実習を「体験する・訳す・やってみる」の3段階に
地域の専門家のガイドを受け、そこで得たものを自分の経験と言葉に訳し、同じコースを自分のやり方でガイドする。聞いて終わりにしない形にしました。
なぜ変えたのか
アドベンチャートラベルや、ニューラグジュアリーと呼ばれる層が旅に求めるものは、豪華な設備ではありません。その土地でしかできない体験と、そこに暮らす人との自然な接点です。高級ホテルや目に見える贅沢よりも、本物らしさ、静けさ、地域文化との接点が選ばれています。地方は豪華さで競う必要がない、ということでもあります。
地方には、宿泊も飲食も人材も、受け入れられる量に限りがあります。一度に大人数を迎える形は、地域にも運営にも負担が大きい。少人数でも繰り返し訪れてもらい、地域の中でお金が回るほうが続きます。訪れる人の数を最大にすることではなく、地域に何が残るかを考える。そういう観光のほうが、地方には合っています。
サイクリングは、自然、食、歴史、暮らし、人との出会いを、ひとつの流れにつなぎやすい移動手段です。アクティビティと自然と文化と交流を結びつける器になり得ます。ただし、走っているだけでは体験になりません。そこに意味づけが要ります。それをするのがガイドです。
2027年には、愛媛で Velo-city 2027 Ehime が開かれます。しまなみ海道には、質の高い体験を求めるサイクリストが欧米豪を中心に増えていくと見込まれています。その現場に立つガイドに何が必要か。刷新の出発点はここにあります。
受講者から返ってきた言葉
2026年9月、しまなみサイクリングガイド育成研修の今治会場でJCTAが担当した2日間。その受講後アンケートには、こういう記述がありました。
ガイドは「地域体験の設計者」であるという言葉が印象的だった
英語力より気配り力を海外のお客様は求めている
カリキュラムで伝えたかったことが、受講者自身の言葉で返ってきました。
2日間で、どう身につけるか
座学は全11章。ガイドの役割、服装と装備、自転車の点検、交通ルールと走行位置どり、リスクアセスメント、事故・緊急時対応、ツアーの事前準備と当日の運営、コース下見、メンテナンスと路上トラブル対応、そしてストーリーテリングと地域価値までを扱います。
実習は、会場ごとにコースを引きます。2026年9月の今治会場では、今治市街を回る16.6kmのコースでした。8つの区間に分け、1区間ずつ先導を交代します。区間ごとに見どころを置いてあるので、交代のたびにブリーフィングが入る。そこで事実を読み上げるのではなく、座学で扱った手法で話してもらいます。聞いた話を、その日のうちに自分の口でやってみる構造です。
講師1名にアシスタント講師2名。受講者を3つのグループに分け、全体講義は講師が、グループワークはアシスタント講師が受け持ちます。
走ってから、学ぶ
今治会場では、実習を先に、座学を翌日に行いました。順序を決めたのは受講生自身です。「本日中にガイド実習まで行う」か「座学を先に行い翌日実習」かを示したところ、3グループとも、遅くなっても本日中に実習、で一致しました。
結果として、リスクを身体で経験してから座学に入る形になりました。「実際に走行し、リスクを経験してから座学に移れたことは良かった」という声が複数ありました。進行の判断を自分たちで決めることも、ガイドに必要な力のひとつです。
受講後アンケート
17項目の5段階評価で、総合平均4.58。4または5をつけた回答の割合は94.4%でした(今治会場・18名回答)。
修了したあと
しまなみサイクリングガイド育成研修では、研修を修了し、口述試験に合格すると、SHIMANAMI CYCLING GUIDE NETWORK に登録され、ホームページのガイド紹介欄に掲載されます。資格を取って終わりではなく、現場に立つところまでつながっています。
すでにJCTA認定を受けている方へ ── 18,000円で再受講できます
カリキュラムは少しずつ変えてきました。2025年までに受講された方は、新しいプログラムをあらためて受講していただけます。通常50,000円(税別)のところ、18,000円(税別・税込19,800円)です。更新講習として1日のみ受講される場合は9,000円(税別)です。
対象 2025年までにご受講された方
日数 通常のガイド養成講座と同じ2日間(更新講習として1日のみの受講も可)
配布物 新たに書き加えた受講生用テキスト(全51ページ)
